ご主人名義の不動産を、奥様のK様と3人のお子様が相続なさいました。この度、遺産分割協議が成立し、K様が単独相続することになったので、「遺産分割」を登記原因とする持分移転登記のご依頼にみえました。登記簿謄本を拝見すると、既に1年ほど前に「相続」を登記原因として法定相続による所有権移転登記が済んでおります。もともと遺産分割協議により、相続人中の誰かの単独所有にする予定があったものの、時間がかかる可能性があったため、K様がお一人で相続人全員のために法定相続割合により名義変更を済ませたものとの事でした。
法定相続割合による相続登記は相続人の一人から申請することが出来ますが、将来遺産分割協議をする予定があるのであれば、あえて法定相続割合による登記を先行する必要はありません。また、K様が3人のお子様から委任状をもらって、形式的に相続人全員が申請したことにすればよかったのですが、純粋な意味でK様の単独申請でしたので、申請人とならなかった3人のお子様には「登記識別情報通知」が発行されませんでした。この登記識別情報というのは、法務局の業務がコンピューター化されたことによって登場したパスワードの様なものですが、往来の権利書ないしは登記済証と呼ばれたものに代わるとても大切な書類です。
この後申請する「遺産分割」を登記原因とする持分移転登記ですが、この登記をすることによって持分が増えるK様を登記権利者、持分が無くなる3人のお子様が登記義務者として「共同申請」する必要があります。所有権の登記名義人が登記義務者となって登記を申請する場合、登記識別情報と印鑑証明書が必ず必要になるのですが、3人のお子様は初めから登記識別情報を持っておりません。もちろんこの場合の対処方法はあるのですが、余計な費用が発生してしまいます。そもそも登録免許税を二回納付するのも不経済と思われます。相続手続きはその効果も含めて慎重に判断しながら進めたいものです。