S様のお母様が亡くなられてから間もなくお父様も病に倒れ、以来十数年に及びS様とその奥様が自宅で療養看護に努められました。そのお父様がお亡くなりになりました。相続人はS様とS様の弟と妹の三人です。この三人で遺産分割協議を行うことになったのですが、三人の共通する認識は療養看護に多大な努力を惜しみなく提供してくれたS様の奥様にもそれ相当の財産を分けて報いるべきだということです。そこで相続人の配偶者に寄与分として財産を分ける方法は無いかということになりました。
寄与分というのは、相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした相続人に、法定相続分を超える財産を取得させることにより共同相続人間の衡平を図る制度です。つまり相続人ではないS様の奥様について寄与分を考慮することができません。
そもそも寄与分とは法定相続分を修正するためのものであって、寄与分という具体的権利があって、それに基づいて財産権が移転するものではありません。寄与分の主張が遺産分割の主張と共にすべきとされているのはそのためです。
そこで遺産分割協議において、もしS様の奥様が相続人であったならば取得できたであろう相続分に該当するものをS様の相続分に加算し、S様が法定相続分を超えて相続する理由が「療養看護に努めたことによる寄与分」であることを遺産分割協議書に明記することにいたしました。遺産分割協議書には誰が何を取得するのかを記載すれば足り、その経緯を記載する必要はない事から、ある程度柔軟な対応をすることができます。逆にこのように一言添えることによって、法定相続分と異なる相続分を定めたことによる相続人以外の利害関係人の不満を回避することも可能であると思われます。