成年後見人になるための資格というものはありませんが、後見人になれない場合については規定があります。未成年者、過去に成年後見人を解任されたことがある人、破産者で復権していない人、本人と訴訟で争ったことがある人、行方不明の人などです。また、本人と何らかの利害関係がある人も、後見人の候補者として立候補しても選任されることはまずありません。
アパート経営をしている母親の認知症が進み、契約の更新や家賃収入等の管理が難しくなってききたため、長男のT様が自分を後見人の候補者とする成年後見の申し立てをしたいとお考えになりました。詳しく話をお伺いすると、このアパート経営は母親だけが営んでいた事業というより、家族全員が何らかの形で関与しており、長男のT様も大いに利害関係を持っていることが分かりました。T様としては、自分が後見人となって、今まで通り母親の名義を前に出しながら、直接アパート経営を続けられればというのが成年後見制度を利用する一番の理由でした。
この様な場合、利害関係を有する親族が後見人に立候補してみても裁判所が選任することはまず無く、司法書士などの専門職後見人が選任されることが普通です。T様も見ず知らずの専門職後見人が付くことはどうしても避けたいところ、自分が選任される可能性が皆無ではないところから手続きを進めたのですが、案の定専門職後見人が選任される雲行きになってきました。そこでT様は第三者がアパート経営に口をはさんでくる事態を避けようと、成年後見の申し立てを取り下げようとしたのですが、取り下げには家庭裁判所の許可が必要です。アパート経営を円滑に行うためでは許可事由になりません。
成年後見制度は本人を保護し支援するための制度です。本人の財産を親族が自由に管理処分するために国が権限を与えてくれるような制度では決してありませんので、この制度の趣旨を正しく理解し利用することが大切です。