相続による不動産の名義変更の登記を申請するに際して、登記簿に記載された被相続人の住所が、お亡くなりになった時の住所と異なる場合、登記簿上の住所から最後の住所までの変遷が分かる住民票の除票や除籍の附票などを添付する必要がでてきます。これは登記簿上の住所が戸籍には記載されていないため、戸籍を見ただけでは登記名義人と戸籍に記載されている人が同一人物であることが分からないためです。ところがこの住所に関する証明書は保存年限が短いため、必要な時には廃棄されてしまっていることが多々あります。このような場合でも、本来登記名義人のみが所持していたはずの「権利書」を添付したり、相続人全員が同一人物に間違いない旨を請け合う「上申書」などを作成するなど対処方法はいくつかあります。
T様のご主人がお亡くなりになりました。T様ご夫妻にはお子様がいなかったので、相続人はT様とご主人の5人の兄弟姉妹達です。相続人全員で遺産分割協議を行い、ご主人の財産は全てT様が相続することで話はまとまりました。そこで、ご自宅の登記名義をT様に変更するための準備をしていたところ、ご主人の登記簿上の住所に遡る住所に関する証明はすでに破棄されていていることが分かりました。権利書も見つかりません。そこで、遺産分割協議書と別に、上申書を作ることにいたしましたが、ご主人の兄弟姉妹の内、遺産分割協議書の作成までは協力するけれども、上申書の作成には協力できないという人が出てきたのです。改まって上申書などを作成すると、余計な責任を負わされるような気がして、関わりたくないとの事の様です。
そこで上申書の作成はやめて、遺産分割協議書に被相続人の住所証明書が取得できない旨と、登記名義人は被相続人に相違ないことを相続人全員が確認した旨の一文を入れさせてもらうことにいたしました。実はあまり違いは無いのですが、上申書作成の責任を負わされより、遺産分割協議書で確認しあっただけの方がだいぶ軽いイメージになります。相続手続きに関与する方は様々なお考えをお持ちですので、すこしでも多くの方法をご案内できなければならないと痛感した事例です。