自筆証書遺言は、本文の内容、作成日付、作成者氏名をすべて自筆で書き、作成者の印鑑を押すというルールが守られていれば、一応は有効です。一応というのは、本文の内容が何を意味しているのか判断が難しいケースが稀にあり、場合によってはその部分につき無効になることがあるからです。例えば、「家は長男に相続させる」などは、建物は長男に相続させるけれど土地は長男に相続させる気はないとしているように読めますし、「家は長男に任せる」などは、管理だけはしてほしいけれども登記名義については何も指定していないようにも読めます。判例は、遺言者の真意を合理的に判断して、なるべく有効になるよう解釈するべきとしておりますし、登記実務においてもなるべく柔軟な対応をしてくれるようですが、なるべく「相続させる」「遺贈する」など、遺言の効力が発生したとき、だれが読んでも解釈に違いが出てこない、遺言書に適した表現をお使いになることが望ましいことは間違いありません。
T様の亡くなったご主人の遺言書の事例は、あまりに漠然としていたために逆に解釈に困らなかったという事例です。残された自筆証書遺言は、遺言としての要件は全て整っていたのですが、本文は「全財産を妻のTに譲ります。」とだけ書かれておりました。あまりに漠然とした遺言で、はたしてこれで不動産の名義変更ができるか不安だったのですが、奥様のT様に包括的に、つまり何もかもそっくりそのまま相続させたいとの真意が明らかに読み取れましたので、さほど問題にならず「相続」を原因として、T様だけが申請人になる単独申請で無事相続登記が出来ました。