いつでもどこでも書けて費用もかからないことから、直筆証書遺言は遺言書の中で一番利用しやすい方式といえます。しかしながら、自筆証書遺言の四つのルールの内、一つでも欠けていると、遺言書全体が無効になるのが難点です。その四つのルールとは、遺言書の本文全部を自筆で書くこと、作成日付を自筆で書くこと、作成者氏名を自筆で書くこと、そして作成者が印鑑を押すことの四つです。
S様のお兄様が自筆証書遺言を遺して亡くなりました。遺言内容は生前大変お世話になった友人に、所有している不動産を遺贈するというものです。ところが残念なことに四つのルールの一つである印鑑の押印がありません。印鑑を押すことがルールであることを知らなかったのか、ただ押し忘れただけなのかわかりませんが、この遺言書は無効です。
唯一の相続人である妹のS様としては、お兄様が残された意思を尊重したいとの思いがあました。本事例では、お兄様とその友人との間にはお兄様の死亡を条件に不動産を贈与する旨の「死因贈与契約」があったと判断して差し支えない状況があり、契約であれば書面で残されていなくても有効なので、唯一の相続人であるS様が登記義務者となって「死因贈与」を登記原因として友人への名義変更を済ませました。
死因贈与契約書が書面で作成されていたとしても、その契約の執行者の指定が無いなど、多くの場合で相続人全員の協力が必要となるので、本事例では相続人がS様だけだったのが幸いしたといえます。