S様の叔父にあたる人が亡くなりました。叔父は妻子がいるので、弟にあたるS様の父親は相続人ではありません。ところが叔父はS様の父親に特定の不動産を遺贈するとする遺言書を遺していたのです。S様の父親は叔父より先に亡くなっていたため、S様が父親の代わりに権利を取得するのではないかとご相談にみえたのです。
本来相続人であった人が被相続人より先に亡くなってしまった場合、その相続人の子が代わって相続人となる決まりがあります。いわゆる代襲相続です。S様の事例はこの代襲相続に大変よく似たものなのですが、代襲相続はあくまでも「相続」の場合に認められる決まりで、「遺贈」の場合には適用されておりません。
民法では「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」として、遺贈には代襲相続が無いことをわざわざ規定しております。遺贈は特定の人に対してなされるものなので、遺贈の効力発生時にその特定の人が存在しなければ遺贈が無効となるのは当然と言えます。
仮に、叔父の死亡により遺贈の効力が生じた後、父親が受贈者として遺贈の承認又は放棄をしないで死亡した場合はS様が関与する余地はあったのでしょうが、本事例はそうではありません。遺言書の遺贈に関する部分は失効しており、遺贈された特定の不動産は本来の相続人の相続財産としての手続きに組み入れられることとなります。