遺言書が遺されていない遺産相続の手続きには、お亡くなりになった方の出生に遡る戸籍を取得する必要があります。このことは法定相続による手続でも遺産分割協議による手続でも変わりはありません。相続人の範囲を確定させなければ法定相続分を知ることが出来ませんし、相続人の全員が関与していない遺産分割協議書は存在しえないからです。
N様の父親が不動産を遺して亡くなりました。そこでN様ともう一人の相続人である弟との間で遺産分割協議をし、不動産はN様が単独で相続することになりました。この時作成した遺産分割協議書を持って相続登記の手続きについて法務局に相談に行ったところ、始めて父親の出生に遡る戸籍を集める必要があることをお知りになったそうです。相続人は自分と弟の二人だけであるのは間違いないのに、わざわざ遠い地方の役所に父親の戸籍を請求して、相続人が自分たちだけであることを証明しなければならないのが面倒で、しばらく手続きを中断してしまっていたそうです。
実際に戸籍を調べてみますと、N様と弟の間にもう一人亡くなった弟がいたことが分かりました。N様はこの亡くなった弟のことを忘れていたわけではなく、父親より先に亡くなっている以上相続人ではないと思い込んでいたようです。ところがこの亡くなった弟には子供が一人おりました。父親より先に亡くなった弟の奥さんは相続人の範囲に入りませんが、子供は代襲相続人となります。相続人の範囲は亡くなった順番や代襲相続の有無で大きく異なることになりますので、やはり出生まで遡った戸籍を正確に読み解いて、その範囲を確定する手続きは避けて通るわけにはいかないことがよくわかります。