常に相続人となる配偶者以外の相続人には相続人となる順番があります。1番は子供などの直系卑属、2番は父母などの直系尊属、3番は兄弟姉妹です。「相続人となる順番」とは先順位の相続人がいない場合に後順位の相続人か登場してくるという意味です。この「いない場合」とはもともといない場合はもちろん、相続の放棄など後発的理由でいなくなった場合も含まれます。このため、自分は相続分はいりませんというつもりで相続の放棄をするととんでもないことになりかねません。
K様が相続の放棄をなさりたいとの事でご相談にお見えになりました。先日、お父様が亡くなり、お母様と一人娘のK様だけが相続人であるところ、K様自身はご結婚なさって安定した暮らしをしておりますので、お父様が遺された遺産は全てお母様に相続してもらい、老後の生活に充ててほしいとお考えで、自分が相続の放棄をすればお母様だけが相続人になれると思われていたのです。まさにとんでもないことになりかねない典型例です。
お父様の子供はK様だけですから、K様が相続の放棄をすると第1順位の相続人がいなくなります。直系尊属もすでに全員亡くなっておりますので第2順位の相続人もおりません。その結果、第3順位の兄弟姉妹が相続人として登場することになってしまうので、決してお母様だけが相続人になれるわけではないのです。自分の兄弟姉妹ならともかく、配偶者の兄弟姉妹ですから、関係が希薄な方も当然いらっしゃると思われます。思いがけず相続人になったことから、兄弟姉妹としての相続分である4分の1を要求する方もいないとは限りません。
お母様だけにすべての遺産を相続してもらう方法は、K様が相続人の立場でお母様だけが遺産を取得する旨の「遺産分割協議」を成立させることです。相続の放棄をすると、遺産分割協議をする当事者ですらなくなってしまいますので要注意です。