I様のお父様がお亡くなりになられたのはかなり前のことです。相続人はI様を含む三人の子供達です。お父様は公正証書遺言を残しており、自宅の土地建物についてはずっと一緒に暮らしてきたI様が相続する様指定されておりました。その他の相続人も遺言内容に異存はありませんでした。ところが困ったことに指定された遺言執行者が誰だか分かりません。このことが原因で何年も相続登記に手を付けられなかったとのことです。
特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言がある場合は、当該遺言において相続による承継をその相続人の受諾の意思表示にかからせたなど特段の事情のない限り、遺産分割協議等の何らの行為を要せずして、被相続人の相続開始の時に直ちに当該不動産はその相続人に「相続」により承継されるとされています。つまり遺言執行者の「執行」を待つまでもなく、相続発生と同時にI様に所有権が移っていると考えられるわけです。そのため相続登記に遺言執行者の関与は不要で、I様のみが相続登記を申請することになります。もし仮に指定された遺言執行者が誰だかわかったとしても、遺言執行者は相続登記の申請人にはなれないので、連絡を取ること自体が無駄なことになったわけです。長いこと相続手続きのことが気にかかっていらしたようですが、やり始めれば何てことはない事は結構あるものです。