H様から祖父に当たる方名義の不動産の相続登記をお受けいたしました。お亡くなりになったのは10年以上前です。このようなケースで労力を要するのは、今回相続手続きをする被相続人と登記名義人が同一人物である事を証明することです。なぜなら戸籍は150年(少し前だと80年)保存されているのに対し、住所に関する証明は除かれてから5年で廃棄されてしまうからです。登記簿謄本に記載されているのは所有者の住所氏名ですが本籍は記載されていません。住所と本籍が全く同じであれば住所証明は省略できても、なかなか完全に一致している場合は少ないのではないでしょうか。ですから出生からお亡くなりになるまでの戸籍の収集はできても、被相続人が登記名義を取得した際に、確かに登記簿上の住所と同じところに住民票があったということを証明できる客観的証拠はすでにないのです。
このような場合、登記名義を取得した際の権利書があれば、それを添付することによって本人の同一性は十分証明できるので住所証明が無くても何とかなるのですが、被相続人の権利書というのは意外と所在がわからないことが多いようです。H様の祖父の権利書も所在不明であったため、やむを得ず不在住・不在籍証明で本人の同一性を「疎明」することにいたしました。
この証明は、登記簿上の住所に同性同名の別人が他にいない事を証明してもらうことによって、今回相続手続きをする被相続人が登記簿に記載されている名義人と同一人物である可能性を高める程度の効力しかないと考えられますので、他に証明する方法がない以上、法務局もやむを得ず登記を通してくれているのだと思います。
ところで、この不在住・不在籍証明ですが、取得するのに委任状は不要です。ある人が存在にないことを証明してもらうわけですから、委任する権限を持っている人も存在しえないのであたりまえですね。