F様はすでに認知症との診断を受けておりますが、認知症の症状は現れるときと現れないときがあります。いわゆるまだら認知症です。これ以上症状が進行してしまった場合、長女に財産管理をすべて任せたいとお考えなのですが、法定後見制度を利用した場合、長女が後見人に立候補しても必ずしも家庭裁判所が選任してくれるとは限らず、全く見ず知らずの第三者が後見人になる可能性があることを知り、心配で仕方ないご様子です。
将来判断能力が衰えたとき、自分が信頼している人に後見人になってもらう制度に「任意後見制度」というものがあります。任意後見制度は公正証書で「任意後見契約」を結ぶ必要がありますが、契約である以上、契約の相手方(後見人になってもらう人)や将来付与する代理権の種類、範囲を自由に決めることが出来ます。ただし、契約を結ぶことが出来るだけの判断能力が無ければなりません。F様としては自分が認知症と診断される前に、長女と任意後見契約を結んでおけばよかったと後悔なさっておいででした。
「認知症」というのは特定の病気を示すものではなく、特定の症状です。認知症と診断されたからといって、意思無能力と診断されたわけではありません。任意後見契約書を作成する公証人が、本人に契約締結の意思が確かにあることを確認することが出来れば、認知症と診断されていることだけを理由に公正証書作成を拒むものではありません。
F様も認知症の症状が全く出ていないタイミングで公証人と面談が出来、無事長女と任意後見契約を締結することが出来ました。