民法が定める遺言の方式として、「死亡の危急に迫った者の遺言」というものがあります。病気やその他の事情で死亡の危急に迫った方が遺言をするときに認められる特別な方式で、3人の証人が立ち会って、本人の口述を証人の一人が書きとめ、その内容が正確かどうかを確認したうえで証人が署名押印して作成するもので、遺言の日から20日以内に家庭裁判所に確認請求をしなければならず、また、遺言者が亡くなったときは家庭裁判所の検認手続きをあらためて請求しなければなりません。
重い病にかかり入院中のF様が遺言書を作成したいとのことでした。ご自分で字を書くのはすでに難しいので、公証人に病院まで出張してもらい、公正証書遺言を作成することにいたしました。ところが公証人が病院に来る日をまたず様態が悪化してしまったのです。やむを得ず死亡危急時の遺言書の作成を試みることにしました。推定相続人は証人にはなれませんので医師2名と私が証人となり、一応何とか形式的に不備はないと思われるものを作成いたしました。
死亡危急時遺言は普通の方式の遺言ができるようになってから6ヶ月生存すると無効になります。F様の様態は現在安定しておりますが、普通の方式で遺言が出来るまで回復するかは分かりません。どうか無効になってくれることを願うばかりです。