現物分割というのは残された遺産をそのままの形で分割するものです。例えば、相続人Aは甲土地を、相続人Bは乙土地を相続するような場合です。相続財産が現金や預貯金であれば、相続分割合にしたがい分割するのは容易なのですが、相続財産が不動産や動産である場合にはなかなか平等に分けるのは難しいものです。甲土地と乙土地の評価額がピッタリ同じということはありえないからです。
父親が亡くなりY様とその弟の二人が相続いたしました。相続財産は自宅の土地建物と預貯金です。Y様は妻子とともにこの自宅に父と一緒に住んでおり、弟は独立して地方に住んでいますので、この自宅だけ相続できればその他の相続財産は全て弟が相続してくれて構わないと思っております。弟としてもこのまま兄親子が自宅を相続して暮らすことに異存はありません。
ただ、二人の相続分が等しく2分の1ずつであることを考えると、自宅の土地建物の評価額にくらべ遺された預貯金は明らかに少ないものでした。弟としては、父の面倒をずっと見てきたのは兄のY様だったので、この内容でも遺産分割協議書に印鑑をつくつもりになっていたのですが、このことが将来兄弟の間に軋轢が生じる原因になりはしないかという心配がむしろY様の方にありました。
そこで、Y様が自己の財産をもって、弟が相続する預貯金が自宅の評価額に不足する部分を補填することにいたしました。現物分割の中に代償分割の要素を加えたいわば複合型です。相続人間での遺産分割協議ではこのような柔軟な考え方での協議が可能となるのです。