遺言書を遺す理由には、将来遺産分けにおいて遺された遺族が争うことを予防するということにあると思います。様々な事情で法定相続では不公平になると考えられる場合に、遺言者の最後の意思をもってこれを調整することが出来れば、相続人間の利害の対立を和らげることが期待できるからです。逆に、特定の財産を守るためにあえて不公平に思われてもやむを得ない遺言書を残すようなこともあるようです。
A様は将来自分がこの世を去った後、先祖代々伝わる土地のことで不安がありました。昔は家督相続人によって単独相続されるのが当たり前でしたが、今は何も手を打たない限り法定相続によって持分が分割されてしまいます。A様の相続人は四人の子供たちですが、兄弟仲が悪いわけでもなく、この四人に共有されることに何も問題は感じていません。しかしながら、将来子供たちの次の代になった時、いったいどれだけの人数で共有されるのか見当もつきません。その結果、先祖代々伝わる土地が維持できなくなる事態が生じるのではないか、というのが不安の原因です。
そこでA様は遺言によって相続分の指定をすることにしました。子供たちの一人に土地を単独相続させることにしたのです。A様の財産はこの土地以外ほとんどありませんので、相続人に指定された子供以外に不公平感が生じるのはどうしても防げません。それでも自分が残した遺言のせいで、子供たちの仲を悪くさせてしまうことがあっては絶対なりません。そこで、なぜそのような相続分の指定をしたのかその理由と、四人がこれからも仲良く暮らしていってほしいという思いを遺言書に書くことにしました。このような特別の思いや願い事を「付言」といいます。付言には法的な効果はありませんが、遺言内容に対する不満を解消し、遺留分権の行使を抑える効果は十分あると思われます。