遺言書の種類の一つに秘密証書遺言というものがあります。この方式で遺言書を有効に作成するためには、遺言書に署名をして印鑑を押すこと、封筒に入れ遺言書の印鑑と同じ印鑑で封印すること、公証人と二人以上の証人に封印された封筒が存在することを確認してもらう等のルールにしたがう必要があります。しかしながら証人と公証人が確認しているのは封筒に入った状態の書類が存在しているということだけで、この封筒の中身が何であるかは誰も確認していません。公証人は本人が自分の遺言書だというので、そのように言っていたことを封筒に書いてくれるだけです。ですから開封してみたら遺言書が無効だったなどということが起こりかねません。
B様が秘密証書遺言の作成をお望みだったのは、遺言内容を秘密にしておきたいからという理由ではありませんでした。この方式の特徴である、自署と押印さえあれば、本文はワープロで作成したり、達筆な人に代筆してもらっても構わないという点にありました。最近握力が落ちてきて、文字がうまく書けなくなってきたB様としては、できれば全文を自筆で作成しなければならない自筆証書遺言ではなく、秘密証書遺言にして本文をワープロで作成したかっただけなのです。
しかしながら、秘密証書遺言は無効になるリスクがありますし、公証人が関与していながら効力発生後に検認手続きも必要です。秘密ということにこだわりが無ければ決してお勧めできる方式ではありません。作成にかかる手間も秘密証書遺言と公正証書遺言はほとんど変わりません。けっきょくB様は、遺言内容を口述すれば公証人が遺言書をまるごと作成してくれる公正証書遺言で作成する事に変更なさいました。